夢十夜。~銀杏~
おこしやす つらら庵 ♪
「銀杏」
春のありがたい温もりの中、卓也は坂道を急ぎ足で下る。
今年やっと7つになったばかりだが、まだまだまわりの子よりか幼く見える。
母に作って貰ったナップサックを嬉しそうに身に付け、同い年の菜穂子の家に急いでいるのだ。
坂を下り、石でできた小橋を渡った先に人の往来がほとんどない幅の広い一本道がある。
そこを抜け、山道を少し行くと菜穂子の家がある。
花が好きな菜穂子に何か摘んでいってやろうと卓也はあたりを見回しつつ一本道を歩く。
「わぁ。」
いつもは気にしなかったが道の両脇は桜並木になっており、いましも春の日を受けて桜が満開していた。
桜の花びらを持って行って水盤に浮かべて見せたら菜穂子は喜ぶだろうと思い、道に落ちている桜色を卓也はひらった。
しかし、それは銀杏のようだ。
銀杏は時期になると実を拾いに祖父の家へ毎年行くので幼い卓也でも知っている。
形はどう見ても銀杏なのに色は桜色。
良く見ると桜並木だと思っていた木には全て桜色の銀杏が付いている。
卓也は暫く不思議な感覚にとらわれていたが、すぐに菜穂子の家に行くのを思い出しやにわにそこを離れた。
手に銀杏を握り締めながら。
途中ナップサックに母が入れてくれたレモネードを飲み、菜穂子の家へと急ぐ。
玄関まで来ると菜穂子は不機嫌そうな顔で大きな石垣にもたれかかっていた。
「おそかったのね。」
「ごめんよ。なほちゃん家遠いんだもの。」
「今日はママが映画に行くから遊ぶのは四時までにしなさいって。」
「うん、僕も帰りが遅くなるとママが心配するから…あっ。」
卓也は途中でレモネードを飲んだ時に手に持っていた銀杏をナップサックに入れたのを思い出し、菜穂子に取り出して見せた。
「みてよ。ピンクの銀杏だよ!」
銀杏は手に長く握りしめていたのもあり少しくたびれてはいるがまだ桜色をして卓也の差し出した小さな白い手にふわりと乗っている。
菜穂子は少し疑わしげな顔をしながら手に乗った銀杏をしげしげと眺めた。
「こんなのちっとも珍しくないわ。」
「なんで。銀杏は普通黄色じゃないか。なほちゃんは羨ましいからそんなこと言うんだろ。」
「たくやはいろんな事をまだ知らないのよ。あたしなんて5つの時に虹色の猫を見たわ。」
卓也は少し悲しそうに自分の手にまだのっている銀杏を眺めた。
眺めていると次第に悲しい。
目が潤みピンクが視界に滲んだ。
また、おこしやす つらら庵 ♪
〇なんとなく水墨DEアニメ〇
「ピッコロ」
声がカッコイイ!!